
「1本くらい歯がなくても大丈夫」と思っていませんか?
実は、歯を失って噛めない状態が続くことは、口の中だけでなく、脳の働きにも悪い影響を与えることが分かっています。近年の研究では、歯の本数が少ない人ほど認知症を発症するリスクが高くなるという報告もあります。
ここでは、噛めないことと認知症の関係、そして早めに取り組むべき治療方法について詳しく解説します。
目次
■歯を失うと脳にどんな影響があるの?
◎噛む刺激が脳の活性化を助けている
私たちが食事をする時、歯や顎を動かすことで、脳には多くの刺激が伝わります。
噛む行為は、食べ物を細かくするだけでなく、脳の血流を増やし、神経細胞を活性化させる重要な役割を担っています。
特に、記憶を司る海馬(かいば)への刺激は、認知症予防に深く関係していると考えられています。しかし、歯を失って片側だけで噛むようになったり、柔らかい物しか食べなくなったりすると、脳への刺激が減少します。
その結果、記憶力や判断力などの認知機能が低下しやすくなるのです。
◎噛めないことが引き起こす負の連鎖
噛む力が弱まると、食事のバランスも崩れがちになります。
例えば、肉や野菜など繊維質の多い食べ物を避けるようになると、たんぱく質、ビタミン、ミネラルが不足し、栄養バランスの乱れから脳の働きが鈍くなることもあります。
また、噛めない、見た目が気になるといったことから人と話す機会が減り、社会的なつながりが薄れることも認知症のリスクを高める要因のひとつになる場合があります。
■実際に研究で明らかになっていること
歯の本数と認知症の発症には明確な関連があるとする研究は多くあります。
また、歯を失ってから長期間放置していると、顎の骨が痩せて咀嚼力が低下するため、脳への刺激がさらに減少します。
特に高齢になると、歯周病やむし歯によって自然に歯を失うケースが増えますが、歯を失ったままにせず、噛める状態を維持することが大切です。
■歯がなくても噛める状態を取り戻すことが大切
◎放置するとどうなる?
1本だけ歯を失った場合でも、周囲の歯が傾いたり、噛み合わせが崩れたりします。
結果として、左右の噛む力や咀嚼のバランスが悪くなり、脳への刺激が減少したり、不均衡になる可能性があります。
◎補うことで回復しやすい
歯がない部分を補い、しっかり噛める状態を取り戻すことで、脳の血流が改善し、思考や記憶に関わる神経活動も活発になります。
実際、入れ歯やインプラントで咀嚼機能を回復した人は、認知機能が向上する傾向があるという報告もあります。歯を補う治療は見た目や食事のためだけでなく、「脳を守る」ための大切なケアでもあるのです。
※Influence of the Functional Improvement of Complete Dentures on Brain Activity
■噛めない状態を防ぐ3つの治療法
◎インプラント
顎の骨に人工の歯根を埋め込み、その上に人工歯を固定する治療法です。
見た目が自然で、しっかり噛む力を取り戻せるのが特徴です。
周囲の歯に負担をかけないため、長期的に安定した咀嚼機能の回復が期待できます。
費用は高めですが、自分の歯のように噛めることを重視する方に向いています。
◎ブリッジ
失った歯の両隣の歯を削り、橋のように人工の歯をかける方法です。
治療期間が比較的短く、自然な見た目に仕上がりますが、支えとなる健康な歯を削る必要があります。部分的な欠損に適しており、早く噛む機能を取り戻したい方に向いています。
◎入れ歯
保険が適用になるものもあり、費用を抑えて多くの歯を補える治療法です。
ただし、動いたり外れたりすることがあり、噛む力はインプラントよりも弱い傾向があります。近年は精密な入れ歯や金属床義歯などもあり、フィット感が向上しています。
【歯を失っても機能を回復させることが大切】
歯を失うことは、見た目や食事の不便さだけでなく、脳の老化や認知症リスクにも関わる重大な問題です。
噛むことは、記憶力や集中力を支える重要な刺激であり、1本の歯を失ったままにしておくことが、将来的な健康リスクにつながることもあります。
歯を失ったときは、放置せずにできるだけ早く治療を受けて噛める状態を回復することが大切です。
