
目次
サ行の言いにくさ、成長を待つべきか迷ったときに
4歳前後のお子さんがサ行をタ行やチャ行のように話すと、発達の途中なのか、歯並びや舌の癖が関わるのか迷いますよね。この記事では川崎市の親御さんからのご相談をもとに、発音発達の目安と歯科相談を検討したいサインを整理しました。
この記事の要点まとめ
- サ行は習得が遅い音で、4歳前後の言いにくさは発達途中の場合がある
- 開咬や受け口、低位舌・口呼吸などが発音に関わる場合があるとされる
- 他の音の広がりや口呼吸などが重なる際は、小児歯科への相談が目安になる
サ行が言いにくい原因とは?子供の発音発達と舌の動きの仕組み

発音(構音)は生まれつき備わった能力ではなく、口や舌の筋肉が育つ過程で少しずつ獲得されていく機能と考えられています1。なかでもサ行は難しさが際立つ音で、練習途中の状態が長めに続くお子さんも珍しくありません。
4〜5歳児におけるサ行発音の獲得目安と個人差
日本語の音には、身につきやすい順序がおおよそあるといわれます。マ行・パ行のように唇を使う音は早く、続いてカ行・ガ行。そしてサ行・ザ行・ラ行は最後まで残りやすいグループで、5〜6歳頃にかけて整ってくることが多いと報告されています。
ですから4歳(年少)でサ行が不明瞭でも、それだけで何かが起きていると考える必要はありません。とはいえ個人差の幅は広く、兄弟姉妹でも進み方は違います。手がかりになるのは年齢よりも、①言いにくいのはサ行だけか、それとも他の行にも広がっているか、②以前と比べて滑舌に変化がみられるか、という2点。変化が乏しいまま就学が近づくようなら、一度専門的な視点で確認しておくと見通しを持ちやすくなります。
サ行が「タ行」や「チャ行」に置き換わるメカニズムと舌の位置
サ行とタ行では、舌の使い方が根本から違います。サ行は舌先を上の前歯の裏に近づけ、わずかなすき間から息を細く流し続ける「摩擦音」。一方のタ行は舌を上顎に押し当て、息をいったんせき止めてから解放する「破裂音」です。
このすき間を保つには、舌先の細やかな動きの調整と、舌全体を持ち上げる筋力が要ります。力の加減がまだ難しい段階だと舌が上顎に触れてしまい、サ行がタ行やチャ行のように聞こえることがあります。反対に舌が前へ出過ぎると、英語のthに近い息漏れした音になる場合も。サ行の言いにくさは「舌の位置」と「息の流し方」という視点で捉えると、背景の整理がしやすくなります。
歯並びや噛み合わせがサ行の発音に影響を与える主なパターン

発音は舌だけで作られるものではありません。歯・唇・顎が組み合わさって成り立つため、歯並びや噛み合わせ(咬合)の状態が滑舌に関わる場合があると考えられています2。
前歯が噛み合わない開咬や受け口による空気の漏れ
サ行では、口の中に一定の空気圧をためて前歯のすき間から息を通します。ところが奥歯を噛んでも前歯が閉じない開咬(かいこう)では、前歯部から息が抜け、摩擦音を作りにくくなることがあります。前歯に間隔がある空隙歯列(すきっ歯)でも、同じように息が分散しやすい状態です。
下顎が前に出ている受け口(反対咬合)だと、上下の前歯の位置関係がずれるため、舌先を当てる目標地点が定まりにくい傾向が指摘されています。また6歳前後の生え変わり期に前歯が抜けている時期は、一時的にサ行が不明瞭になることがあり、歯が生えそろうにつれて落ち着いていく例もみられます。骨格的な要因によるものか、生え変わりによる一時的なものか。この区別を考える意味でも、口の中を実際に確認することが手がかりになります。
低位舌と口呼吸が引き起こす舌の筋力低下と歯列への作用
本来、安静時の舌は上顎に軽く触れた位置にあるとされます。それが下顎の底に落ち込んでいる状態を低位舌と呼びます。低位舌では舌を持ち上げる筋力が育ちにくく、サ行に必要な舌先の動きの調整も難しくなりやすいといわれます。
さらに低位舌は口呼吸と結びつきやすいもの。口が開いた状態が続けば唇を閉じる力が弱まり、歯列を内外から支えるバランスも崩れやすくなります。飲み込むときに舌を前へ突き出す癖(舌突出癖)が残っている場合は、前歯が押され続けて開咬の要因のひとつになることも。よだれが多い、飲み込むのに時間がかかるといった様子も、口の周りの機能をみるヒントです。つまり不正咬合と発音の言いにくさは、舌の癖という共通の背景を持つ場合がある。ここが押さえておきたい点です。
当院の小児診療では「むし歯にしない」「歯並びを悪くしない」ことを第一に考え、指しゃぶりや舌癖など歯並びに関わる要因にも早期からアプローチしています。
家庭で様子見できる範囲と小児歯科を受診すべき判断基準
「もう少し待つべきか、相談すべきか」という迷いは、多くの親御さんが抱えるところ。判断の軸を持っておくと、日々の観察が漠然とした心配ではなく情報収集に変わります12。
就学前に確認したい家庭での観察チェックリスト
次の項目に複数当てはまるようなら、歯科相談を検討する目安になります。
- サ行以外の音(カ行・ラ行など)も広く不明瞭で、会話が聞き取りにくい
- テレビを見ているときや集中しているとき、口がぽかんと開いている
- 奥歯を噛み合わせても上下の前歯の間にすき間が残る
- 飲み込むときに舌が前に出る、口元に力が入る
- 4歳を過ぎても指しゃぶりが続いている
- 鼻がつまりやすく、いびきや寝ている間の口呼吸が目立つ
- よだれが多い、食事に時間がかかる、丸のみが多い
反対に、サ行だけが時々置き換わる程度で会話は成り立ち、言える音が少しずつ増えているなら、家庭で見守りながら経過を追う選択も十分にあり得ます。なお発音そのものの訓練は言語聴覚士(ST)の専門分野で、歯科は歯並びや口の機能面からアプローチする役割を担います。構造や癖が気になるなら歯科、音の出し方を中心に相談したいならことばの教室や言語聴覚士。この整理が、最初の窓口選びの参考になります。
小児歯科で行う口腔筋機能療法(MFT)と家庭での関わり方の注意点
歯科では、舌や唇、頬の筋肉を整えるMFT(口腔筋機能療法)に取り組むことがあります。舌を持ち上げて音を鳴らす練習、スティックを使った舌先の運動、望ましい飲み込み方の習得などを、遊びの要素を交えながら段階的に進めていく方法です。必要に応じて、成長期の顎に合わせたマウスピース型装置による小児矯正を併用する場合もあります。費用は保険適用の範囲と自由診療の範囲があり、内容や期間によって幅が出るため、検査結果をもとに事前の説明を受けたうえで判断していきましょう。取り組みの効果には個人差があります。
家庭では、言えていない音をその場で言い直させるより、親御さんがゆっくり言い返す形のほうが負担になりにくいものです。絵本の読み聞かせや、しりとり・早口言葉といった遊びも自然な練習の機会になります。当院では、はじめて来院されるお子さんが次回以降も通いやすいよう、器具に触れながら説明するTell Show Do法を実践しています。川崎駅から通いやすい環境で、共働きのご家庭にも配慮した通院計画をご相談いただけます。
よくある質問
Q1. 歯並びと滑舌には関係がありますか?
A. 関係する場合があると考えられています。前歯が閉じにくい状態や歯の間にすき間がある場合、息の流れを調整しにくくなり、サ行などの音が不明瞭になりやすい傾向が指摘されています。ただし発音の状態は舌の癖や筋力、発達段階にも左右されるため、歯並びだけで決まるものではありません。
Q2. 歯列矯正をすると喋りにくくなりますか?
A. 装置を装着した直後は舌が触れる感覚が変わるため、一時的に話しにくさを感じることがあります。多くは慣れとともに軽減していくとされますが、感じ方には個人差がありますので、気になる点は担当医にお伝えください。
Q3. 何歳ごろまで様子を見てよいのでしょうか?
A. サ行は習得が遅い音のため、4歳前後の言いにくさは発達の途中である場合も少なくありません。就学が近づいても変化が乏しい、他の音も広く不明瞭、口がぽかんと開いているといった様子が重なるときは、一度ご相談いただくとよいでしょう。
Q4. まず歯科と言語聴覚士のどちらに相談すべきですか?
A. 噛み合わせや舌の癖、口呼吸が気になる場合は歯科、音の出し方そのものを中心にみてほしい場合はことばの教室や言語聴覚士が窓口になります。歯科で口腔内を確認したうえで、必要に応じて連携先をご案内することも可能です。
Q5. 未就学児でもトレーニングを続けられますか?
A. MFTは遊びの要素を取り入れ、短時間でできる内容から始めることが多く、年齢に応じた進め方を検討します。ご家庭での取り組みは1日数分から設定できますので、通院間隔と合わせて生活に合う形をご相談ください。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(口腔・歯の健康)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/teeth
日本歯科大学大学院生命歯学研究科卒業 博士号(歯学)取得
厚木市 上杉歯科医院 勤務
横浜市 あざみ野青葉デンタルクリニック 勤務
川崎駅D&Dクリニック歯科皮膚科 開業
日本口腔インプラント学会会員
日本歯内療法学会会員
日本顕微鏡歯科学会会員
日本顎咬合学会会員
歯科基礎医学会会員
日本睡眠学会会員
あわせて読みたい関連記事
